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留学体験記 [沖縄第6回]洋上救急編

ヘリ添輸送機ヘリ添輸送機ヘリ添輸送機

しばらくネタに困っていましたが、先日海上保安庁(海保)から表彰されることがあったので今回はその報告です。

それは2月某日の深夜に上司からの1本の電話から始まりました。「洋上救急の要請が来とるんじゃけど行く?(広島弁ばりばりの先生です)」。前回紹介したヘリ添は沖縄県の事業でしたが、洋上救急は日本水難救済会の事業で、日本の周辺海域の洋上の船舶内で傷病者等が発生し、緊急に医師の加療を必要とする場合に海上保安庁の巡視船や航空機等でその船舶医師を洋上へ派遣して救急医療を提供する世界で唯一のシステム(詳細は日本水難救済会HP参照)です。今回は簡単に言うと、救急+過去に流行った映画「海猿」のコラボレーションというイメージでしょうか。
沖縄本島南西80km(だった記憶)で、フィリピンから韓国へ向かっている船舶で激しい腹痛と発熱の患者が発生したため当院に相談があり、quick SOFAで2項目該当のため洋上救急として向かうことになりました。那覇空港滑走路を挟んで海側に海保があり今回まず向かいたいところで、空港ターミナルビル側に陸上自衛隊基地がありヘリ添で向かうところ。滑走路を横断すればすぐなのですが夜中といえども当然そんなことは許される訳もなく、海保に行くには那覇空港南側の瀬長島へ渡ってから向かうというタクシー運転手も知らない道で、迷いながら何とかたどり着きました。
海保基地からヘリで向かいましたが、前回のヘリ添とは異なるのは、上空でホバーリングして隊員がロープで降り傷病者を吊り上げて来てからの接触となる、という点でした。真っ暗な東シナ海の上空で照明弾を打ち上げ、生憎の風のためマストのような船上の棒に接触しないよう揺れるヘリを微調整しながら、慎重に降りようとするがなかなかうまくいきません。上空でドアを開けているから日中のドクターヘリのときよりも揺れが激しく、自分は次第に揺れで酔ってきている自分との闘いになり始めました。
無線で隊員のいろんな作戦が聞こえてきますが、現実はシュッといくような甘くはなく、結局燃料切れでいったん基地に戻ることになりました。給油が終わる頃には吐き気も落ち着き朝日が昇り始め、ひとり気分一新しつつ再び離陸して向かいました。さすがは救難のプロで、作戦を練ってきたのか今度はそんなに時間もかからず吊り上げてきました。基地に戻るヘリ内でバイタル測定、診察を行い採血、ルート確保し、基地からは救急車で当院へ搬送しました。思っていたより状態は安定しており無事搬送できました。

7月に洋上救急協力の表彰と記念のバッジをいただき、翌日には琉球新報という新聞にも小さく記事になっていました。洋上救急は頻度が少ないようで本当に貴重な経験となりました。