北海道大学病院 救命救急センター | 北海道大学大学院医学研究院 侵襲制御医学分野 救急医学教室

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研修医インタビュー [第16回]得知祐匡先生

得知祐匡(とくち よしもと)先生プロフィール

  • 1990年 岩見沢市生まれ
  • 札幌北嶺高校卒業後、岩手医科大学医学部入学
  • 2014年3月 同大同学部卒業
  • 2016年4月 北見赤十字病院

ビビリの性格を克服するため最後に救急を

得知先生の写真

得知先生の目標は、早くも定まっている。それは消化器内科医の専門医。祖父から続く消化器内科医院の後継でもあり、医学部に入学した時から「消化器内科以外はあまり考えてこなかった」と得知先生は説明する。
そのために消化器系に強いとされる斗南病院から初期臨床研修をスタートさせた。腫瘍内科、消化器内科、内分泌代謝内科など周り、2年目の北大付属病院でもほぼ消化器系での研鑽に勤しんだ。
ところが、2年目に入ってから、あることに気がついた。
得知先生は、初期臨床研修を終えると地方の中核病院である北見赤十字病院へ行くことを望んでいた。同病院では、消化器内科系だけでは終わらず、当直もこなさなければならない。当然、救急患者が搬送されてくる。
周りからは研修を終えて独り立ちした医師として見られる。ましてやその病院には間違いなく初期臨床研修医もいるだろう。後輩医師の前で救急患者を全く診られないというのではしめしもつかない。第一、かっこ悪い。
得知先生は話す。
「(斗南病院は)消化器がめちゃめちゃ強くて、僕にとってはたくさん教えてもらえて、ありがたい病院でした。1年目は救急の代わりにICUを取っていたのですが、救急患者が来てというのではなかったので」
そこで考え付いたのが、初期臨床研修の最後に救急の必修を取るという選択だった。
「2月、3月と救急をやって勢いをつけていくと、4月に(新しい場所で)スムーズに入れると思ったからです」と得知先生は微笑み、本音も口にする。
「自分がビビリ症だったので、いきなり救急も診なくてはならない場所で、救急が未経験はやばいな。ビビリなので先手は打っておかないと」だが決してビビリは治った訳ではないが、救急の研修を受けたことで得知先生は少なくとも苦手意識がなくなったという。
「救急をまわるまでは、急変した患者さんを診て、自分はパッと何をしてもいいのか全然わからなくなり、頭が真っ白になってしまうことがあったけど、それが少し克服されたような気がしますね」と得知先生。

北大救急は「究極の内科」

救急での研修で一番得たことは「考える力」と得知先生は話す。
これまでは、薬の使い方でもマニュアル的なやり方では、十分に対応できていたが、救急ではそれが効かないのだという。
例えば、一般病棟の場合、夜中に医師が残っていることは少ない。そのために医師は看護師らに約束指示を出す。下痢の時にはこの薬、発熱したらこの薬をとかの処方を医師が施して、病院を後にする。夜勤の看護師は、その指示に従って薬を患者に与える。
ところが救急/ICUではそれがほとんどない。何か容態が変われば看護師から直に電話があり、薬の指示をその都度しなければならない。
得知先生は言う。
「重症の患者さんので、そのままにしておくと悪化してしまうので、どんな原因があるのかを調べて『これだったら大丈夫かな』と考えて出すようになりました」
教科書的なマニュアルが効かないことに加え、これまでと扱う薬の種類が違うという。さらに得知先生は続ける。
「ICUの患者は水分管理を大事にしている。その患者が下痢になったら命にも関わるので、マニュアル通りに下痢の時には、これでいいじゃないかという感じでは対応できないのです。それこそ適当にやっていたら、上の先生に突っ込まれ放題なので」と得知先生は苦笑いをする。
体の中で何が起き、その原因は何なのかを突き詰めて薬を処方するため、得知先生は「救急は究極の内科ですね」と口にする。

患者の徹底した水分管理と多くの手技

患者の体内の水分管理は、どこの科でも大事だが、「これほどずーっと考える機会はこれまであまり無かったし、数時間ごとの尿量とか、全く考えてきませんでした」と得知先生。これまでの研修先では1日単位でしか水分管理はしてこなかったからだ。
「2日くらいおしっこが出ていないなと対応していても、これまでは間に合いました。しかし、救急、ICUでは2-3時間くらいでおしっこが全然出ていないと、水が溜まってきているからすぐに行動しなくてはいけないのです」と得知先生は苦い経験の話を続けた。
「最初、そのままほっておいたら、上級の先生がやってきて怒られました。『血圧とか、体に水が溜まっている指標が器械で上がってきているじゃない。そのまま放っておいたら死んじゃうかもしれないよ』とね」
その時、救急では時間単位で診て、判断しなくてはならないんだということを学んだそうだ。
「短いスパンでどんどんと考えていかなくてはならないだと。最初はびっくりしたけど、それはすごくいい勉強になっていますね」
手技に関しても勉強になったという。これまでは胃カメラの扱いが多かったものの、気管挿管、カテーテル、人工心肺の扱いなど、手技の多さは救急ゆえに多い。
得知先生は「他の科で1回ずつとかはやってきたことがあったんですけど、こんなに毎日のようにやることは絶対になかったです。毎日、手技の勉強をさせてもらっているようなものです。僕の中では短期間でギューっとやらないと手技は覚えられないイメージがあったので、こんなに結構、ギューってやってもらえたので、逆に身につきました」と少し誇らしげに答えた。

人工心肺と白血病で逝った2例が印象に残る症例

印象に残る症例を質問すると得知先生は「だいたいが驚いた症例ばかりです」と口にする。
中でも二例の患者が印象に残ったという。人工心肺をつなげられた患者と、原因不明の感染症で長くICUに入っていた患者だそうだ。
得知先生は救急で研修を受けるまでナマの人工心肺装置を見たことがなかった。それだけに頭の中では理解できても、不思議な思いが残っている。
「(人工心肺装置をつなぐと)心電図上、心臓が動いてないじゃないですか。だけど人工心肺が回っていれば、意識もあって、普通に『あ、ちょっと胸が痛い』とか、すごくナチュラルに話している。それがすごく不思議な状況で、こんなことがあるんだなと。心臓は全然、動いていないのはモニターで明らかなのに、あの機械が付いているだけで、こんなにも元気に人間は話せるのか」と得知先生は昨日の出来事のように驚いた表情を見せる。
そしてもう一例は、最後、驚くような結末となった患者さんの思い出だ。
その患者は、なにかしらの感染症が疑われていて、他病院からICUに転院してきた。得知先生が救急で研修を始めた頃には、改善傾向を示し始めていたものの、すでに3ヶ月ほどICUに入っていたという。
ICUにはそれほど長く留まることが少ないために、多くの研修医らも気に止めていた患者でもあった。
救急での研修に入って二週間くらい経った頃には、体にはもう何も管を付けていなくて、ご飯を自力で食べられるほどにまでなっていたそうだ。その患者も「良かった、良かった」と話すほどになり、あとは転院するだけだと誰もが思っていた。
ところが得知先生が翌朝、日勤でICUに出向くとその患者が意識もなく管に繋がれているではないか。得知先生は「顔は似ているけど、別人だよな。昨日、元気に食事をしていたのだから」と思いながら近づくと、やはりその患者だった。
前の晩に得知先生がICUを後にして朝までの時間に一体、何が起こったのだろうか。得知先生が質問すると食事を誤嚥してしまったとのこと。老人には誤嚥から肺炎を起こすことはよくある話だが、得知先生は「誤嚥で、しかも僕が不在のこれだけの短い時間で元気な人がこれだけ急激に悪くなるなんて」と驚きを隠せなかった。
「僕はやっぱりICUに入っている人は、みんな一筋縄ではいかないというか、油断できない人しか揃っていないんだ」と得知先生は改めて思った。その後、患者の容態はさらに悪くなり、白血球がだんだんと高くなり急性白血病と診断された。
「これまで全く白血病の症状も示していなくて、ありとあらゆる感染にかかり、原因不明の感染症でやられるのか思いきや、いきなり新しい病気、しかも特大な病気が発症して…スーパーびっくり」と得知先生。
結局、その患者さんは、元気に食事していた日から一週間も持たずに他界してしまった。
「誰も予想していなかった終わり方です。やはり長くICUにいる患者さんは本当に元気になるまで油断していてはダメなんだなと」と得知先生は身にしみて感じた。

病院までどれだけ良いコンディションで持っていけるかの術は身についた

飛行中や航海中に「お医者様はいらっしゃいませんか?」と聞かれたり、あるいは容態が悪く倒れている人に遭遇したりした場合にも、得知先生は「今だったらやれるし、名乗り出られると思いますよ」と話す。
「多分、救急科を回っていなかったら、そのような場合に、まず何をやったらいいか分からなかったし、いろんな難しいことなんかを考えてしまっていました。今は違います」
それはとにかく心拍停止をしていた患者の場合には、ひたすら人工呼吸と心臓マッサージをし続ければいいと考えるようになったからだという。
心肺停止で運ばれてきた患者を数多く見てきて感じたことは、その場に居合わせた人が救急隊に引き継ぐまでにどれだけ心臓マッサージを施していたかどうかが大事だということだった。
得知先生は話を続ける。「心臓が止まっていて、息をしていなくて、脈がないとなって、その心臓を下手でもいいから誰かが押していることが大事で、心臓を押すことさえしていれば助かると考えたら、自分も小難しことを考えずに、とりあえず心臓を押しておけば良いのだみたいに考えられるようになった。この人をどうやって病院まで持っていければいいのか、助かる可能性高くするのは何かなって。とりあえず良いコンディションで(救急まで)持って行きさえすれば、助けられる人たちばっかりなので」

目指すべき医師像は、最新の知識を常に更新する臨床医

得知先生は特に医学の研究をしたいとは思っていない。どちらかというと臨床一筋でいくという。そのためには、知識だけはいつも新しいもので満たしておきたいという思いがある。
「例えば北海道は、札幌は都会だが、学会もほとんど地方では行われない。だからたとえ地方勤務をしていても、それが診療所のような小さなところでも、これまで身につけただけの知識ではなく、最新なものに、常に最新なものにと更新していきたいと思っています。」