ERC2015(その2)2016.9.2
2015年10月29日から31日までの3日間、チェコのプラハで開催された欧州蘇生学会(European Resuscitation Council)の年次集会に参加してきました。
(10/30)
学会2日目は自分の発表がありました。Poster sessionですが最近よくあるモニター画像を使ったpresentationです。
紙を印刷しなくて良いこと、データの提出期日が早いので学会直前はゆっくり旅行の準備ができることがメリットですね。
内容は全国ウツタインデータを用いたBLS vs ALSの予後比較です。予想通りALSは神経予後を改善せず、神経予後不良患者を増やす結果となりました。詳細は論文で。急いで書きます。


2日目の印象に残った話をいくつか。
OngoingのRCTがいくつか紹介されていました。アミオダロン、リドカイン、プラセボのALPS studyは最近publishされましたね。
かつてオーストラリアで頓挫したアドレナリン vs プラセボ研究がイギリスで始まっています。きっとアドレナリンは無効/有害という結果になるのだろうと思っていますが、中には有効な人がいるはずなので、8000人のRCTのサブ解析で有効な患者群を明らかにしてほしいです。
Primary endpointが神経予後ではなく生存率なのが気になりますが・・・。神経予後良好の患者はとても少ないので、そこをendpointにすると8000人でも足りないのでしょうか。

ECPRの話を聞いてきました。G2010発表時のERCのときよりも大きく扱われており、AHAに比べてECPRに否定的なスタンスのERCでもそれなりに注目されているようですね。
以下のtableを示して、「ECPRが院内/院外心停止で有効なのは(very-low-quality evidenceだけど)確かなようだ。問題は誰に導入するべきなのかがわからないことだ。」という話になっていました。
提示されたknowledge gapは以下の通りです。
- Controlled clinical trials are needed to assess the effect of ECPR vs. traditional CPR on clinical outcomes in patients with cardiac arrest.
- What is the optimal flow rate for ECPR in the treatment for cardiac arrest?
- Which subgroups of patients can benefit most from a strategy of ECPR?
- What type of patients should be considered for ECPR?
- What role, if any, should prehospital ECPR play in resuscitating patients from OHCA?
- What is the optimal target temperature for patients on ECPR after cardiac arrest?
- What are reliable prognostic factors for patients treated with ECPR after cardiac arrest?
SAVE-Jのデータを解析すればいくつかの答えは出せそうですけど、SAVE-Jのサブ解析はどこかで行われているのでしょうか・・・。
ちなみにプラハでは院外心停止に対するECPRの前向きRCTが進行中です。ランダム化ができてしまうのがすごいですね。


夜はお土産を買いに行きました。大阪にも出店している有名な石鹸のお店です。
自分が石鹸好きなので、学会のお土産でしばしば石鹸を選びます。普段使わない人にはありがたくないでしょうけど。


国民一人あたりのビール消費量が世界一のチェコではいたるところでビールが飲めます。
この日は地元の人でごった返す有名店で頂きました。コースターでグラスに蓋をするまでエンドレスにビールが注がれます。すばらしいシステムですね。



チェコ料理は口に合いませんでしたがスイーツは別です。Trdelnikという伝統的なお菓子でいたるところで売っています。中が空洞で砂糖がかかったシンプルなものが定番らしいですが、生クリームを入れた写真のメニューが一番おいしかったです。


ライトアップされた夜の街並みです。札幌の街灯はLED化が進み青々としていますが、こういう色温度が低いライトアップの方がきれいですよね。

(10/31)
最終日で印象に残った話をいくつか。
心停止蘇生後患者の予後予測は私たち臨床医の喫緊の問題ですが、神経予後不良の因子として有名なmyoclonusは必ずしもそうではないという研究が紹介されていました。

一方で、全身性のmyoclonusが30分以上持続する”status myoclonus”はやはり予後不良を強く予測できる因子のようです。
強調されていたのはfocal, discontinuous myoclonic jerk ≠ status myoclonusということです。
僕もこれまで一緒にして考えていました。

低体温療法を施行した患者がいつ覚醒したのかを調べた研究です。
復温後72時間以上経過してからも覚醒した症例がちらほらいますね。
治療撤退の判断をするために必要な神経予後予測ですが、北大ではかなり丁寧に時間をかけて話を進めています。タイトルのような”pulling the plug too early”になることはまずありません。

予後予測のまとめです。
神経予後予測は複数の因子を組み合わせて行うこと、低体温を施行した患者では72時間以降に行うことが強調されていました。
そして下図のstrategyで”poor outcome very likely”と判定された患者に対してWLST(withdrawal or withholding of life-sustaining treatment)の決断をするところまでがERCガイドラインには記載されています。予後予測の後の話が示されていないJRCガイドラインとは違うところですね。
また、”poor outcome very likely”を予測するためには偽陽性率FPRが5%以下かつ95%信頼区間が狭い予測因子が必要なのですが、JRCのガイドラインでは日本発の信頼区間が広い研究結果が多く引用されています。いずれもサンプルサイズが小さいことが原因ですが、進行中の日本救急医学会OHCAレジストリーを使えば信頼区間が狭い予測因子を同定できるかもしれないですね。
