松本先生の留学体験記(その2)2024.9.27
さて、前後しますが自己紹介が遅れていました。
この体験記を書いている時点で医師10年目、救急・麻酔・集中治療の各研修を終えた年次となります。北大医局では、とても良い同僚に恵まれ、上司からは手厚く指導をしていただき、また常に暖かく見守っていただきながら日々診療をしていました。また、後輩も多くなってくる年次ではありますが、多くの優秀な後輩にも恵まれました。良き上司と優秀な後輩がいたが故に、今回の国内留学が実現したものだと思っています。
また、10年目ということもあり、臨床に関しては大きく詰められることもなくなり、ある程度は自立できるようになってきたと感じ始めていました。
そんな中、2023年春から「日本一の救命センター」を目指している、小倉崇以先生率いるエリート集団に殴り込みに行ったわけですが、、、結果は惨敗でした。
初日からECMOが複数台稼働しており、カンファレンスでは、聞いたことも無いような単語が飛び交います。同年代の同僚も複数いましたが、そのレベルの高いことと言ったら。。。
日本各地の猛者の集まりの中に放り込まれ、「井の中の蛙大海を知らず」とはまさにこの事かと思い知らされました。
今まで強靭なメンタルを持っていると思っていましたが、4月の勤務開始直後は、単身赴任で家に帰っても真っ暗なこともあり、「早く札幌に帰りたいなぁ」や、仕事帰りに車に乗りながら「このまま東北自動車道を北上しようかなぁ」と弱音が出そうになっていました。
ただ、ワンオペ育児を快く受け入れてくれた妻の出来すぎた一言が支えとなり、なんとか辛い最初の数ヶ月を乗り越えることができました。
今後、単身赴任で国内外の留学や研修に行かれる先生方に、誇れる我妻からの一言をここでお伝えします。「私たちが我慢して、あなたが学び、その結果多くの患者さんを救えるなら、私たちは我慢するよ。」ヒポクラテスも頭が下がる名言ですね。
そんな辛い日々を乗り越えながら、あっという間に北海道では経験しない「梅雨」がやってきました。梅雨はこんなにも雨が降るものかと、再度思い出させられましたが、来る日も来るにも雨に見舞われていました。病院の駐車場代の数千円をもったいないと思い、徒歩通勤を選択した結果、日々靴下まで濡れてしまう通勤となり、後悔したのを覚えています。ただし、あくまでも「ケチ」な性格なので、2年目の梅雨も徒歩通勤を徹底していました。そんな梅雨の頃から、少しずつ新生活に慣れることが出来てきました。
済生会宇都宮は「日本一の救命センター」を唄うだけあって、全国から研修に訪れる若手医師が多いです。毎年10人弱の人の出入りがあります。そのため、教育システムは充実しています。日々の診療・指導体制は完璧で、毎日その日のリーダー・北大で言う教官的立場の先生に相談し、治療方針を決めていきます。あくまでも集中治療医としてのプライドがあるため、基本的治療戦略は全て自分たちで決めていきます。主治医は別診療科のことも多くありますが、我々に一任してくださるのは、過去の先輩方が築き上げた信頼関係があるからだと思います。朝昼晩にカンファレンスがあり、冗談混じりで笑いながら平和なカンファレンスのことが多いですが、明らかに間違った治療を行っていると「壁ドン」されることもしばしば、、、かなりのハイパー施設なだけあって、症例も多いため時折失敗してしまうこともあります。ただ、失敗は必ず次に活かせるように、振り返りカンファなども日々行われています。自分も外傷CPAの治療戦略で選択ミスをしてしまい、振り返りをした記憶があります。ダメージコントロールで最低限の治療戦略を立てることが、最善の策であることを再確認し、より一層「一流」と言われる救急集中治療医を目指そうと思わせるイベントだったと思います。
そして夏には日々の診療や環境には完全に慣れることができ、日々とても楽しく学びながら診療することができるようになっていました。
ところで、単身赴任生活の集中治療医はとても多忙で、片道5時間かかる札幌には帰ることが出来ずに、子供にも会えない「可哀想なお父さん」、たまに帰ると「おじさんまたきたの?」と言われる存在だとお思いでしょう。
答えは「No!」です。救急医や集中治療医を目指している学生さんや先生方は覚えておいていただきたいです。医師にも「夜勤」というものがあり「シフト制」という働き方があることを。
最重症患者を扱う我々は、24時間常に稼働している診療科です。ですので、夜間に関しても「当直」ではなく、「夜勤」となります。つまり夜間も勤務日数としてカウントできるのです。夜勤=2日分の日勤とカウントすることができるので、24時間勤務を行うと3日分の日勤と同じ勤務をしたことになります。この特殊な勤務形態を駆使し、自分は月に2回、合計で10日間は札幌で生活をしていました。
勤務表を見ると、とても過酷な勤務に見えますに、過酷であることは否定しませんが、国内留学を単身で行っても、理解ある上司と同僚がいれば、月に10日は家族と過ごすことが出来ますよ。ぜひ単身赴任も検討してください。
以上2回目は、「新生活に慣れるまで」と、「夜勤おすすめです」でした。
次回は体外循環パラダイスのICUに関してです。