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Wada T, Front Med. 2017 4:1562018.3.13

photo和田

Coagulofibrinolytic Changes in Patients with Post-cardiac Arrest Syndrome.
Wada T.
Front Med (Lausanne). 2017 Sep 29;4:156.
doi: 10.3389/fmed.2017.00156.
PMID: 29034235

論文へのリンク(外部サイト)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5626829/pdf/fmed-04-00156.pdf

著者コメントおよび論文要旨

敗血症や外傷に合併する凝固線溶反応に関して活発な議論が国内外で行われている一方で、救急集中治療領域において敗血症、外傷と並ぶ三大侵襲の一つとされる全身性虚血再灌流障害、現在で言う心停止後症候群(post-cardiac arrest syndrome: PCAS)に合併する凝固線溶異常に関してはあまり活発な議論がなされておりませんでした。PCASの病態は1972年に、”post-resuscitation disease”として発表されましたが、興味深いことに”no-reflow phenomenon”(呼吸循環動態が安定しているにもかかわらず、虚血再灌流後の脳の血流は低下している)という現象は、post-resuscitation diseaseの概念が発表される前の1968年にすでに公表されており、凝固線溶変化がこのno-reflow phenomenonの病態の中心をなしている、と考えられておりました。その後この分野に関する多くの研究がなされましたが、1995年にBöttigerらによりCirculation誌に報告された、”Activation of blood coagulation after cardiac arrest is not balanced adequately by activation of endogenous fibrinolysis”という考えはPCAS関連凝固障害を理解するうえで非常に重要な病態生理と思われます。この理論や心停止患者の疫学をもとに心停止患者に対するt-PA投与の有用性が大規模試験で検討されましたが、最終的にはBöttiger自身が2008年にNEJM誌に、tenecteplaseは生存率を改善しないばかりか有意に頭蓋内出血を増やした、という結果を報告して以来この領域の研究は下火になっていったような印象です。
しかし近年、研究・診断機器の技術の進歩もあり、no-reflow phenomenonの存在が再確認されるなど、この領域に関する興味深い研究が散見されるようになってきました。そのような背景のもと、当科から公表されている多数のPCAS関凝固障害の文献を含め、過去の知見から、PCAS関連凝固障害の病態、凝固線溶異常の視点からの予後予測、治療標的としての可能性をまとめました。このテーマのレビューは世界初であり、今後このテーマを研究する際には必ず行きつく論文になるのでは、と期待しております。実際、つい先日、アメリカ心臓病学会(AHA)での偉い先生の講演でこの論文のFigure1がスライドに使われていたようです。