和田剛志 Thrombosis Medicine 2014; 4: 28-33.2015.3.25

コリン作動性抗炎症反応経路と敗血症、臓器不全
和田 剛志
Thrombosis Medicine 2014; 4: 28-33.
医中誌ID:2014144073
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著者コメント
以前、敗血症ラットモデルに対するニコチンによる迷走神経刺激の実験に関与させていただいた縁から、「コリン作動性抗炎症反応経路と敗血症、臓器不全」というタイトルで原稿の依頼をいただきました。同じ雑誌に、丸藤教授と私の共著で、神経内分泌・自律神経反応と炎症反応、凝固線溶反応の項がありますので、こちらも合わせてお読みいただけるとよいかと思います。
論文要旨
神経系、特に自律神経系が炎症を調整する「炎症反射(inflammatory reflex)」という概念が知られるようになってきが、その中心を担うのが迷走神経であり、この経路をコリン作動性抗炎症反応経路(cholinergic anti-inflammatory pathway)と呼ぶ(図1)。最終的にはアセチルコリン(Ach)がマクロファージ上のα7-ニコチン性アセチルコリン受容体(α7nAchR)に結合し抗炎症作用を発揮するが、Wangらは、敗血症病態におけるAchの影響を詳細に検討した(図2)。この報告を契機に、α7nAchR選択的作動薬や迷走神経の電気刺激が敗血症病態に効果がある、とする報告が散見されるようになり、新たな敗血症治療標的として注目されている。

図1の説明
脳のムスカリン受容体の活性化、あるいは迷走神経刺激により神経終末より放出されたAchは腹腔神経節のα7を発現する神経に作用し、脾神経終末からのNEの放出を促進する。NEによりリンパ球からのAch放出が増加し、マクロファージ上に発現するα7に結合することでTNF-α産生を抑制する。
M1, muscarinic receptor、NE, norepinephrine (ノルエピネフリン)、β2AR, beta-2-adrenergic receptor、Ach, acetylcholine

図2の説明
TNF-αやLPSはNF-κBを介したシグナル伝達を促進させ、核内HMGB-1を細胞質、さらには細胞外へ放出させる。細胞外HMGB-1は向炎症物質として作用し、全身性炎症を惹起させる。アセチルコリンやニコチン受容体作動薬はα7nAChRを介したニコチン作動性抗炎症反応経路を通じてNF-κBを抑制する。