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業績紹介

Tsuchida T, et al. Front Med (Lausanne). 2022 May 12; 9:765805.2022.5.20

photo土田

Protocol for a Sepsis Model Utilizing Fecal Suspension in Mice: Fecal Suspension Intraperitoneal Injection Model.
Tsuchida T, Wada T, Mizugaki A, Oda Y, Kayano K, Yamakawa K and Tanaka S
Front Med. 9: 765805.
doi: 10.3389/fmed.2022.765805

論文へのリンク(外部サイト)

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmed.2022.765805/full

著者コメント

大学院在籍中の成果物となる基礎論文を出版することができました。救急領域に限らず、医学研究では極めて多くの交絡因子の処理が必要です。年齢、性別、基礎疾患、使用薬剤をはじめ、挙げればキリがありません。それに加えて、例えば敗血症では感染の原因となる菌種、感染巣(臓器)、使用抗菌薬などが異なり、臨床研究においては非常に多くの交絡因子が存在することがわかります。
私は当初、大学院在籍中に敗血症の免疫反応について研究しようと思いましたが、敗血症のモデルマウス自体に臨床研究と同じような上記の問題点が多く残っていることに気付きました。
現在、敗血症研究の標準的なモデルマウスは、CLPモデルです。これは、麻酔したマウスを開腹し、盲腸を結紮して、結紮した盲腸を穿刺して腸管穿孔させ、閉腹し、腹膜炎を誘発させるものです。CLPモデルの作成は研究者間でばらつきがあり、結紮部位や穿刺部位も一定ではなく、マウスにも盲腸内の便量、盲腸サイズの個体差があります。そもそも腹膜炎作成のために手術侵襲や麻酔が加わり、臨床像とは大きく異なります。手術侵襲や麻酔の影響で、純粋な敗血症の免疫機序を解明するのは困難であると思われました。
私は基礎研究から敗血症治療薬が誕生していない原因が敗血症モデルにあると考え、まず自分で敗血症マウス作りから始めることにしました。

論文要旨

本論文は糞便懸濁液腹腔内注入法による敗血症モデルマウス(FSIモデル)のプロトコール論文である。24時間以内に排泄された新鮮な便を生理食塩水に溶解、ろ過して糞便懸濁液を調製した。糞便懸濁液をマウスの腹腔内に注入し腹膜炎を誘発させた。糞便懸濁液の濃度を調整することにより、目的の重症度の敗血症マウスを作成し得た。敗血症モデルとしてのFSIの妥当性を評価するため、死亡率が同程度のCLPとFSIの両モデルマウスを病理学的、生理学的、免疫学的、細菌学的に比較検討した。その結果、両者とも敗血症と一致する所見を示し、さらに、FSIモデルは各試験における個体間のばらつきが少なかった。本論文は糞便懸濁液を用いた敗血症モデル作成プロトコルの詳細かつ正確に報告した初めての論文である。FSIモデルは、低侵襲で均質な敗血症モデルである。