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臨床研修

研修医へのインタビュー - 吉田苑永さん(北大医学部6年生)

今回は番外編として、救急に長期選択実習できていた医学部生の一人、吉田さんにインタビューを受けてもらいました。
研修医ではない学生の視点からみた救急とはどのような感じなのか、興味があるところです。

吉田苑永(そのえ)さんプロフィール

  • 1990年 北海道深川市生まれ
  • 北海道立旭川東高校卒業後、北海道大学医学部入学
  • 現在、同大同学部6年生

今回は、現役医学生のインタビューを紹介する。北大医学部では、6年生の春に合計12週間の選択実習がある。前半と後半に分けて、希望する2つの診療科に配属され、長期の実習を行うカリキュラムである。都合12週間のうち半分の6週間という短い期間ながら、現役学生に救急での臨床実習はどのような印象を残し、どういう影響を与えたのだろうか。
開業医の両親や祖父の背中を見て育つうちに自然と自分も医者にという思いが強まり北大の医学部に入学してきた吉田さん。初々しい言葉で救急実習の感想を紡いだ。

実習希望は、格好よく見えた救急医への憧れと初期臨床研修の先取り

吉田さんの写真

吉田さんは将来、内科に進みたいという希望を漠然とではあるが抱いている。卒業後には2年間の初期臨床研修が待ち受ける。中でも救急は誰もが通らなければならない必須の研修科目のひとつ。
「5年生の1週間実習の時に、今回の実習で当直や患者の処置も出来ると聞いていました。(初期臨床研修の)先取りができますし、先生たちの働きやライフスタイルも見てみたいと思いました」と吉田さんは、救急を希望した理由を話す。
全部で12週間の長期臨床実習のうち、前半後半で1科目ずつ6週間選択できるシステム。残り半分の実習は、将来希望する内科を取ることでバランスが良いのではないかと考えたという。こうした計画以外に、吉田さんが救急を希望した理由はもう一つあった。

「先生たちがかっこよく見えた」

それは5年生時の、1週間実習の時の印象だったという。
吉田さんは「モニターやカルテを見て判断し、急変した際にも素早く患者に反応する姿ですかね。救急車で運ばれてきた方の初療室での対応も、ただ机に座ってカルテを書いたり診ていたりしているだけよりも、何かやっている感がありました。そういう実際に働いている姿を見て『あっ、いいな』」と思った。

担当医の一言に覚醒。「学生だからって甘えていちゃあいけない」と反省

大学6年生ともなると医師国家試験に備えて受験勉強に力が入る。焦りもある。実習中とはいえ、学生気分はなかなか抜けきれない。患者を前にしても学生だからという甘えがどことなく支配する。無理からぬことでもあるが、インタビューで印象に残ったエピソードを聞くと、吉田さんは開口一番、患者に接する態度の至らなさに痛感した出来事を話し始めた。
救急の実習は春休み明けの4月から始まった。吉田さんの周りではすでに医師国家試験の勉強に集中している学生が多くいた。吉田さんは人よりも受験勉強のスタートが遅れていたことに「焦り」も感じ始めていた時でもあった。
学生の実習。やれることには当然限りがある。患者さんを診るためにICUなどを頻繁にまわるよりも、学生控え室に籠って同級生と国試の勉強をする時間に充てる方を優先していたという。
救急車が来ないと、みんなで「暇だね」と言いながらの受験勉強。当直の時にも同じように空いている時間を勉強に充てる日々がしばらく続いた。
そんなある日、担当医が学生控え室に現れて、「そんな奥に引っ込んでいたらダメだよ。ICUにいれば処置とかも見学できる。ICUにいるか帰宅するかのどちらかにしたら?」と吉田さんたちを諭した。
「とりあえずICUにいればいいか」と呑気な構えで当直に臨み、国試の問題集などを持って、吉田さんはカンファレンスルームの大きな机で同級生と「こっそり」勉強を続けていたのだった。
そこに今度は別の担当医が現れて、少しおかんむりの様子で口を開いた。
「まあ、国試勉強もいいけど、今やらなくてもよくない?今看ている患者さんが自分の家族や彼氏彼女だったとしても、そういう風にしているの?ちゃんと患者さんの所に通いなさい」。
吉田さんは、その言葉が心に刺さった。「しまった」というよりも「しっかりやらなくては。学生だから甘えてはいけない」と気づかされたのだ。
吉田さんは他の実習生らと同じように、患者をそんなに頻繁に診ても症状が変わらないだろうと思っていた。それよりも勉強していたい、という気持ちの方が上回っていた。が、担当医に言われて初めて「もしこれが自分の母や父だったら、ずっと付き添っているだろうし、患者さんとか血がつながっていなくても、同じような気持ちで接しなきゃいけないな」と吉田さんは自省し、「しっかりしなきゃいけない」と心した。
6週間の実習期間。「せっかく救急にいるなら、救急でしかできない処置もあるし、そこでしか書けないカルテもある。ましてや救急にしか来ない患者さんもいるから」と、その一件以来、吉田さんは受験勉強を後回しにして、救急の実習に集中するようになった。

全身管理の勉強と、医者としての心構えを学んだ実習

救急で学べて良かったことに、吉田さんは「全身状態の管理でした」と感想を口にする。
刻一刻と変わる患者の容態。救急医療は、全身状態を把握しなければ対処や処置ができなくなるといわれる。吉田さんは先の一件以来、積極的に専門医に教えを請うようになり、患者の水の出し入れなど徐々に全身管理の仕組みにも慣れてくるようになった。
吉田さんの印象によると、「やるなら面倒をみるけど、やりたくないならいいよ」という救急医が多く見受けられたそうで、そのため、毎日自分から積極的に専門医に治療方法を尋ね、フィードバックしながら実力を付けていくことにしたという。
吉田さんが担当している患者のカルテも必死に読み返し、判らなければ担当医に聞くことを繰り返す。
「座学とは違い、勉強になりました」と吉田さん。特に救急では代謝と内分泌の項目があり、消化管、腎臓などの全身を網羅する、他の科では見ることが少ないカルテだったために、特に勉強になったと感じた。
最初のうちは、先生の書いたカルテをコピー&ペーストして自分なりにアレンジするだけで精一杯だったそうだ。
「最初の4週間くらいはそんな感じでしたが、最後の方には自主的に『この患者だったら、次の日はこうしたら良いと思います』というアセスメントや提案ができるようになって来ました」と吉田さんは嬉しそうに思い返しながら、「だからもう少し、救急で実習していたかったですね」と言葉をつないだ。
一方で手技も多く学べたという。
血管に点滴の針を刺してルートを取ることから始まり、救急搬送されてきた患者に実際に施す気管挿管の経験も積むことができた。
そのために後半の内科実習は吉田さんには、もの足りなく感じた。実際に患者に触ることもできず、多くは医者の処置の仕方を見学。「見ているだけだな。救急に戻りたいな。救急の方が楽しかったな」と思ってしまったそうだ。
最も、楽しさよりも「想像以上に自分ができないこと。勉強不足と経験不足」を吉田さんは痛感している。
全てはソクラテスではないが、無知の知を知ることから人は進歩していく。救急での実習は吉田さんをはじめ、多くの医学生に多くの刺激を与えたのではないだろうか。

印象に残った症例は熱傷患者

実習では、6人の同級生と一緒に腹壁の70代男性の重症熱傷患者の処置をしてきた。形成外科で腹部の皮膚組織を取り除いた患者で、6週間以上入院していた。日課として毎朝、洗浄して薬を塗ってガーゼを交換するのだが、鎮静を施していたものの、処置をするたびに痛そうなうめき声をあげていた。しかし、毎日、処置を施しているうちに、その熱傷部分が日に日に良くなっていくのが分かる。
「人間ってすごいね」と何度も思ったそうだ。医療の力だけでなく、生きよう、治ろうとする生命力のことでもある。
気管切開されていた患者でもあった。容態が良くなり、担当医から「管を取ってもいいかもね」と言われのが実習の最終日。管を抜いて、喉の切り口を塞いだら声が出せるかなと試したところ、「あ」という声が聞こえた。6週間診ていたけど、初めて聞く患者の生の言葉に吉田さんは感動したという。
救急では多くの患者が亡くなったり、意識が回復しなかったりする症例が多いために、吉田さんは「徐々によくなっていくのを見るのが本当に嬉しかったです」と話す。

今後の進路は道内に残って初期臨床研修

内科医への道を漠然と思っていた吉田さんは、救急の実習で刺激を受けすぎたためか、救急専門医への道も「半々ぐらいですね」と微笑む。
「でも内科でも色々あります。消化器内科のような手技メインの医者になりたいですね。初期臨床研修は患者さんも多くて、救急専門医もしっかりしている病院でやりたいなと思っています」と吉田さんは明るく話す。
地方の市中病院で2年間の初期臨床研修を希望しているという。

後輩医学生へのアドバイス

実習を受ける際に、最初に救急を取る選択は損が無いです。やる気次第ですけど、勉強になると思いますよ。容態の違う患者さんも色々と診られるし、手技も経験できます。
腎臓、肝臓、心筋梗塞、脳梗塞など、重症患者さんが多いので、その分、自分で考えなければいけないことも多いですけど、先生方もすごく熱心で、聞いたらそれ以上の答えが返ってきます。やる気さえあれば、面倒見が良い先生ばかりで、「忙しいから後で」なんて言われないですよ。
私は積極的な性格なので、手伝えることは言われなくても手伝うようにしてきました。自分から行かないと勉強にならないし、ただ黙っているだけでは、実習している意味がないかなと思います。